どうして、こんなに痛いんだろうと思っていた。
最近起きたことだけを見れば、たいしたことではないのかもしれない。
誰かに話したら、「それが何?」と言われてもおかしくない。
だから話せなかった。
自分でも、出来事の大きさと痛みの大きさが、まるで合っていないと思っていた。
でも、少しわかった。
私は、今日の一日だけを生きているわけではない。
これまで歩いてきた場所が、螺旋のように下に繋がっている。
一番上にいるのが、今の私。
昔の傷は昔に置いてきたものではない。
ずっと一緒にここまで来ていた。
だから、今起きた小さなことが、今だけに触れるとは限らない。
ずっと重なってきたものの、一番上に触れる。
それなら痛くて当然だった。
私は長い間、踏んでいる地面が痛すぎると、そこから浮いて走るようなことをしていた。
私はそれを「浮走」と呼んでいる。
逃げる、とは少し違う。
そこにいたら痛すぎるから、身体を少し浮かせて、そのまま走る。
それで助かったこともたくさんある。
たぶん、必要だった。
でも、ずっと浮いていることはできなかった。
私は何度も地面に降りた。
降りれば痛かった。
また浮いた。
そしてまた降りた。
あるとき、思いきり浮走した。
ところが、その最中に起きたことで、今まで見ないでいたものが一気にむき出しになった。
そこには、ずいぶん傷のついた地面があった。
最近できた傷だけではなかった。
ずっと前からあった。
ところどころ見えていたものが、最後に全部出てきたようだった。
それから、浮走が効かなくなった。
浮けば楽になるはずだったのに、浮くと余計に痛くなった。
だから今、私は地面にいる。
痛くなくなったからではない。
むしろ、とても痛い。
でも、ここに立っている。
そして、『白い朝』を書いた。
白いものが転がっている。
月がいる。
ドーナツの穴を抜ける。
昨日の夜へ行く。
理由になっていない理由で、破壊が起きた場所。
ただ書いた。
あとから見たら、そこに今の私まで続いているものがあった。
朝は、夜がなくなった場所ではない。
夜を通ってきた場所に来る。
私は、あれを『白い朝』と呼んだ。
『白い朝』は、仕返しだった。
たぶん、読んだだけではそうは見えないと思う。
それでいい。
でも私にとって、あれは生まれて初めての仕返しだった。
第一部にある場所は、過去だ。
月も過去の月のまま、そこにいる。
白だけが現在にいる。
だから白は、過去に遡って何かをやり直しているわけではない。
過去を変えようとしているわけでもない。
過去にあった地点を、現在の白がもう一度選んでいる。
螺旋みたいなものだと思う。
ぐるっと回って、また同じ地点に来る。
上から見れば同じ場所かもしれない。
でも、前と同じ高さにはいない。
一段なのか二段なのか、それは物事によって違うけれど、少なくとも以前とまったく同じ場所にはいない。
白は、あえて同じ地点を選ぶ。
そして、以前にはできなかったことをする。
そのために、幻想を作ったのだ。
仕返し可能な過去の場所を使う。
現在の白が、そこで新しい行動を取ればいい。
『白い朝』は、最初から第一部、第二部、第三部と順番に出来上がった作品ではない。
今の私から見ると、第三部あたりから始まっている。
そこからぐるっと通ってきて、そして最後に第一部を書き直した。
だから第一部は、作品では最初に置かれているけれど、私にとっては最後でもある。
月のおかしな状態を壊して、そこから奪って、月を本来いる場所へ戻す。
そして朝が来る。
そこで終わり。
第二部の『月の復讐』は、おまけだ。
でも、必要なおまけだった。
大事なおまけだった。
私は最近、黙っていてはいけないと思うようになった。
何もかも説明して「私はこういう人間です」と言いたいわけではない。
でも、違うことを違うと言う。
「そうじゃないんです」と言う。
「私はこうしてほしい」と言う。
相手が間違って受け取っているなら、黙ったままにしない。
自分として言葉にする。
昔の私は、それができなかった。
だから今、それをする。
それも一つの仕返しなのだと思う。
過去の誰かを攻撃するためではない。
過去の自分を責めるためでもない。
かつてできなかったことを、現在の自分がする。
誰も傷つけず、自分も傷つけず、それでもちゃんと仕返しをする。
健康的な仕返しだ。
私の仕返しは遊びの中で始まった。
私は遊んでいた。
それだけだった。
何かを書こうとしていなかった。
遊んでいたら書いていた。
書いたら、「ここ」、前にいた場所だと思った。
よし、仕返ししてやれ。
そう思っただけだった。
初めから終わりまで、私は遊んでいて、途中、真剣に心を痛めた。
剥き出しの神経に直接触れるところまで、自分を追い詰めていた。
翌朝、私は変わっていた。
変わっていることを自覚しないまま、行動していた。
私に、また朝が来ていた。